KameManNen|カメマンネン

見るという営み

A BEAUTIFUL TOOL

VOL.5

藤沢厚輔さん

アートディレクター

現在は、アートディレクターとしてブランディングを中心に仕事をしています。デザイナーを目指したきっかけは、ファッションと音楽が好きだったことです。CDジャケットやファッションカタログをつくるような、華やかな世界に憧れていました。実際にそういう仕事を7、8年続け、仕事は面白かったですし、それなりに評価もしてもらえていたと思います。ただ、次第に、自分のつくったものが消費されている感覚を持つようになりました。新しいものをつくっても、すぐに次の新しいものが求められる。今日格好いいものが、来週には古くなっていく。自分がつくったものが、どんどん消費されていくような感覚です。流行を追い、旬のクリエイターと仕事をし、新しい情報をクライアントへ提供し続ける。自分自身が、最先端の情報を運ぶ媒体のようになっていました。

もちろん、そういう仕事を否定しているわけではありません。ただ僕は、「これは誰がやってもいいのではないか」「自分がやる意味はあるのだろうか」と考えるようになりました。それよりも、まだ世の中から光が当たっていなくても、自分が本当にいいと思えるものや、それをつくっている人と仕事がしたいし、その人や企業、商品の魅力に、自分が培ってきたデザインの力で光を当てたいと思うようになったんです。

当時はまだ、それを「ブランディング」と呼ぶことさえ、よく分かっていませんでしたが、本能的にそっちへ向かっていったのかもしれません。そこから本を読み漁り、先輩たちの仕事を学び、自分なりにトライアンドエラーを10年ほど続けて、今の自分のスタイルが出来上がりました。結局ブランディングとは何か?と聞かれたら、僕にとっては、「気合と根性とバイブス」だと答えますね。地道に勝る近道はありません。

僕はアメリカで育ったこともあり、長い間、自分には地元と呼べる場所がありませんでした。でも、三軒茶屋に住み始めて15年ほど経った今は、ここが自分の地元だと思って生きています。自分が経営するミスターという会社のオフィスを三軒茶屋に構えたのも、そのためです。自分が暮らし、普段から飲みに行く街で仕事をし、クリエイティブを生み出していく。それが、僕にとっての豊かさです。仕事と生活に明確なオンとオフがないからこそ、好きな街で両方の時間を過ごすことで、人生そのものがより濃密になると思っていますし、それもまた、ミスターという会社がいいバイブレーションを生み出していくための、ブランディングの一部だと考えています。

仕事においても、僕にとってブランディングは、ものを売ることよりも、価値や意味をつくることです。依頼を受けた時も、まず見るのではなく、感じることを大切にしています。 世の中には、目に見えるものと、目に見えないものがあると思っていて、数字や言葉にはまだ表れていない、相手の気持ちや、その仕事が生まれた理由を感じ取る。クリエイターは職業というよりも生き方に近いと思うので、仕事をしていない時も、ずっと何かを感じながら生きています。まず感じる。感じて、感じて、感じて、最後に見る。納品する時になって初めて、自分が感じたことが独りよがりではないか、相手に伝わる形になっているかを客観的に確認する。僕にとって「見る」とは、つくったものを客観視することです。
No.99(TSH) / No.9502(TS) / No.1233 SG(MBK/BK)
No.99(TSH)
No.9502(TS)
No.1233 SG(MBK/BK)
コラージュ作品をつくり始めたのも、仕事の軸をブランディングへシフトしていったのと同じ頃でした。昼間はクライアントのためにデザインをし、夜は100%自分が好きだと思えるものをつくる。消費される仕事の中で、自分の純度を保つために始めたのがコラージュでした。 テーマや素材を探す時に見るのは、自分自身の過去です。自分が本当に好きなものは、自分の過去の中にあると思っています。昔、何に憧れ、夢中になっていたのか。過去の自分を掘れば掘るほど、今の自分にとって純度の高い好きなものをつくることができると思います。 異なるものを切り取り、組み合わせると、毎回、意図していなかった意味が生まれます。むしろ、それが目的です。すでにあるものを一度ぐちゃぐちゃにして、もう一度つくり直す。そこから新しい意味やバランスが生まれる瞬間に、大きな達成感があります。

現代は、みんなが少し見過ぎているように感じます。SNSの「いいね」の数や、売上、株価、価格。目に見える数字だけで、物事の良し悪しを判断することが増えています。 ブルース・リーの「Don’t think, feel.」という言葉がありますが、僕の場合は「Don’t look, feel.」です。まず感じる。そして、感じたことが確かなものなのかを確認するために見る。最初から目で見てしまうと、そこで答えが決まってしまうことがあるので、それではもったいないと思っています。そのためには、まず、見ようとしない勇気、自分が感じたことが正しいかもしれないという自信、そして、その場数を踏んでいくこと。そうしてはじめて、「見ない」ということが実践できる。春の匂いや、木陰で揺れる葉っぱの影、風の音、近くに川がある匂い。そういうものをまず五感でキャッチして、足を運んでみたら実際に「あった」っていう発見が好きですね。けっきょく人は、目だけでものを見ているわけではないんだと思います。